第43回 正しい食べ方・飲み方
毎日コーヒーを飲む。四、五杯飲む。コーヒーは濃いめに作って砂糖(てんさい糖)とミルクを入れる。
上京したころはコーヒーはブラックで飲むものだみたいなことをいう人がよくいたが、面倒くさいなとおもっていた。
わたしはお酒を飲んだあとにコーヒーが飲みたくなるのだが、そのときはブラックで飲むことが多い。それ以外はミルクと砂糖を入れる派だ。
コーヒー豆ではマンデリンが好きで、家でも外でもあればそればかり飲む。ミルクと砂糖をすこし入れると、苦味と甘味の両方味わえるし、風味も消えないとおもっている。
ちなみに、マンデリンの産地のインドネシアの人は砂糖をたっぷり入れて飲んでいる人のほうが多いそうだ。
あとウイスキーの水割が好きなのだが、これもストレートかロックで飲むべしみたいなことをいう人がいる。「水割は酒に失礼」みたいなことを何度かいわれたことがある。だったら、ハイボールはどうなるのか。ニッカの創業者は水割り派(常温)だったのは有名な話だ。
そばの食い方とか寿司のしょう油のつけ方とかも好きにすればいいとおもうのだが、何かとうるさい人が多い。
ざるそばやもりそばを食べるときに、そばはつゆにつけるのは三分の一みたいないい伝えがあるが、どっぷりつけたい人はそうすればいいとおもう(昔のそばつゆは濃くて辛かったという説あり)。わざびをそばつゆに溶かすな、そばをかまずに食えという講釈も、どうでもいいとしかおもえない。
かつて山口瞳が三島由紀夫が寿司屋でマグロばかり注文していたことに文句をいった。それを読んだ山本夏彦が寿司なんて好きに食えばいいみたいなことを書いていた。寿司の食べ方や食べ順もいろいろあることを知った。
味の薄い白身魚やイカから食べるとか、卵からとか諸説あるが、回転寿司のアンケートではマグロから食べる人がいちばん多かったらしい(という記事をどこかで読んだ)。
寿司の場合、箸で食べるか手づかみかも論争もある。
焼き肉や焼き鳥をタレで食うのは邪道だという人に会ったことがあるが、正直、そういう人とはいっしょに食事をしたくない。
最近、インターネットで焼き鳥を串からバラすバラさないをめぐって、ちょっとした論争(焼き鳥シェア論争)があった。わたしは串のまま食うけど、単にバラすのが面倒なだけで、どっちでもいい。
あるいは焼き鳥の盛り合わせみたいなメニューで焼き鳥が五本出てきて、それを三人で分ける場合、バラすことで、すこしずついろいろな種類の焼き鳥が食える。そういうときはバラしてもいいかなとおもっている。
焼き鳥シェア論争に関しては、焼き鳥屋の店主の言い方もすこし問題があった。「串から外さず、そのまま食べたほういいよ」というだけでよかったのに、串から外したら「切った肉をフライパンで焼いても同じ」「焼き鳥ではございません」「絶対に美味しくない」と踏み込みすぎてしまった。
唐あげにレモンをかけるかけない論争もそうだが、レモン反対派は、レモンが嫌いな人、レモンをかける前に確認しないマナー違反に腹を立てる人がいる。「レモンは個別にかけよう」と提案すればいいだけ。「怒らずに伝えることも大事なマナーだよ、わかってんのか、この野郎」というのもマナー違反です。
わたしが上京した二十七、八年前、フォークの裏側にごはんをのせて食べる(イギリス式?)のが流行ったことがあったが、アホらしいとおもった記憶がある。あとパスタをスプーンにのせてくるくる巻くというのもあったが、あれは子どもの食べ方らしい。
食べ方や飲み方にはその人その人の「こだわり」がある。カップラーメンにも人によっては作法がある。でも「こだわり」=「常識」になってしまうと困ったかんじになる。
「こだわり」が強いとものの言い方、注意の仕方もきつくなる。あれこれうるさくいわれると食欲が減退するし、メシがまずくなる。
「こだわり」は「やんわり」伝えることが「常識」になればいいとおもっている。