第12回「アイドルじゃなくなったあとも、生きていくんだよ、私たちって」と、堂垣内碧(NEXT YOU)は言った。 ――朝井リョウ『武道館』が描くアイドルの現在

 3月に発売されたCDジャーナルムック『HELLO! PROJECT COMPLETE ALBUM BOOK』(音楽出版社)は、つんく♂率いるハロー!プロジェクト(ハロプロ)関連の全アルバムを網羅する、ファン必携のディスクガイド本。大森が生まれて初めて書いたディスクガイドが4本入ってる点でもたいへん貴重ですが(モーニング娘。のベスト盤とライブ盤に、ミニモニ。映画のサントラ盤と『FOLK SONGS 3』の紹介を書きました)、小説好きにぜひチェックしてほしいのが、最後のほうに収録されている、朝井リョウと柚木麻子のつんく詞をめぐる対談。Juice=Juice「イジワルしないで抱きしめてよ」(ハロプロ楽曲大賞'14で堂々の1位を獲得した名曲)に出てくる"さっぱりスイーツ"とは何か?――などなど、歌詞の細部に徹底的にこだわって、作家ならではの推理と妄想のかぎりをつくす。この2人が選者になって、対談解説つき「つんく詞ベスト集成」を出せばぜったい売れるんじゃないかと思うんですがどうですか。

 ......という話はともかく、その対談の中で、朝井リョウは自身のアイドル観を披露したあと、最後に「〈シャイニング バタフライ〉が大好き。あの曲から生まれた小説『武道館』を4月下旬に出します」と語っている。

〈シャイニング バタフライ〉は、モーニング娘。OGの選抜メンバー10人(藤本美貴、矢口真里、安倍なつみ、石川梨華、吉澤ひとみ、後列左から久住小春、保田圭、中澤裕子、飯田圭織、小川麻琴)で2011年に結成されたドリームモーニング娘。唯一のオリジナル曲。2012年2月15日にリリースされたこの曲を、同年3月10日の「ドリームモーニング娘。スペシャルLIVE 2012 日本武道館 ~第一章 終幕『勇者タチ、集合セョ』」で聴いたときの感動から、最新長編『武道館』は生まれたのだという。朝井リョウいわく、「それまであったいろいろな縛りから解放された上でアイドルをやっている姿があまりに美しくて、泣いてしまって」

 〈シャイニング バタフライ〉は、少女時代を卒業し、傷つき涙した日々を乗り越え、長いトンネルを抜け、まぶしいスポットライトを浴びて蝶のように舞う女性の姿を描く、(モーニング娘。OGたちにとって)自己言及的な楽曲。それ自体が一種のアイドル論と言えなくもない〈シャイニング バタフライ〉から、朝井リョウはいったいどんな小説を紡いだのか。

『武道館』の帯に寄せたコメントで、つんく♂はこう書いている。
「著者はアイドルを生み出す側にチャレンジした。/それも文学の世界で......。なんたる野望。なんたるマニアック。なんたる妄想力」

 主人公の日高愛子は、大手芸能事務所が主催するアイドル発掘オーディションに中学3年生で応募して合格し、その1年後、6人組の女性アイドルグループ、NEXT YOU のメンバーとしてデビューを飾る。夢は、武道館でライブをやること。物語はその翌年、メンバーのひとりが卒業し、NEXT YOU が5人になったところから始まる。

 もっとも、『武道館』は、アイドルグループがさまざまな障害を乗り越え、必死に努力して武道館を目指すスポ根な青春小説ではない。
メンバー同士のたこ焼きパーティーやアイドル動画チェックや学校生活や幼なじみとの交遊やネットでの炎上騒ぎが、グラビア撮影や握手会やダンスレッスンやオリコンデイリーチャートトップ10入りやライブや新曲リリースイベントと並行して、同じ密度で描かれる。

 そのディテールがいちいちものすごくリアルなのがこの小説のポイント。峯岸みなみの丸刈り謝罪動画事件とか、AKB48握手会襲撃事件とか、実際の出来事が(固有名詞を出さず、時期をずらして)ほぼそのまま出てくるだけでなく、細かいネタのひとつひとつにすべて元ネタ(事実の裏づけ)があるんじゃないかと思うほど。
 アイドルオタクなら思わずニヤニヤしたり戦慄したりするでしょうが、アイドル界隈に興味がない人が読むと、これ1冊で、いまのアイドルをとりまく状況が概観できるメリットがある。

 たとえば、NEXT YOUのファンは「ネクス中毒」、ライブは「授業参観」、握手会は「席替え」(対面式ではなく、メンバーと隣同士、椅子に並んで手をつなぐ)と呼ばれる――という設定ですが、こうやってそのグループ独自の呼び名をつけるのも最近の流行。たとえば、CAガールズロックユニットを標榜するPASSPO☆(ぱすぽ)だと、ファンは「パッセンジャー(パッセン)」、ライブや握手会は「フライト」――という具合。

 有名ドルヲタの代表として何度か登場する40代の男性の名前が「サムライ」だったり、メンバーのひとりががちょっと太るとネット掲示板に(というか2ちゃんねるに)「デブ化により完全終了のお知らせ」「【これはひどい】だちまゆ、オーディション時と別人になる【比較画像アリ】」などと書かれたり、ネット記事で握手会を「卑猥な"コンセプトキャバクラ"」と揶揄されたり、素人時代のInstagramのアカウントがバレて騒動になったり......。アニメ好きアイドルとしてソロで番組に出演したメンバーの私物PCがテレビ画面に映り、違法アップロードされた動画をブックマークしていることが発覚してアニヲタに叩かれ大炎上――とか、リアリティがありすぎて胸が痛みますね。アイドル自身と同じくらい、"アイドルをめぐる言説"も、この小説の重要なパーツになっている。
 こうした非難や中傷に対してはいくらでも反論できるし、反論したいのに、アイドルとしては反論できない。怒ることもできない。怒ることを禁じられた存在としてのアイドル。作中の一節を引けば、

 匿名での悪口、盗撮、執拗なまでの過去の詮索、きっとこれまではこちらから怒ってもよかったであろうことが、日に日に、そうではなくなっている。煽り耐性、スルースキル、それらの言葉は自分たちが小さなころにはこの世になかったのに、本当についさっき生まれたような新しい言葉なのに、その習性をあらかじめ持ち合わせていることを当然のように求められる。


 前出の対談で、「ハロー!プロジェクトの歌詞に共通しているのは"怒り"ですよね。だから好きなんだと思う。私たちも根底に怒りがあるから」「怒りがあんまり感じられないんですよ、ほかのアイドル楽曲には」と語る柚木麻子に、朝井リョウは「なぜならアイドルは怒らないと思いたいから。そのほうがこっちが楽だから」と応じ、「弱者のふりをして、その層に媚び」るようなマーケティングをしないのがつんく♂の魅力だと言う。そうした"怒るアイドル"への共感が『武道館』の根底にも流れている。

 NEXT YOUの人気が上がるにつれて、遠い夢だった武道館もしだいに現実味を帯びてくる。というか、いまや(〈本の話〉掲載の『武道館』書評で、でんぱ組.incの夢眠ねむも書くとおり)、メジャーな女性アイドルグループにとって、武道館は遠い夢ではなく単なる通過点になりつつあるし、そのことは本書の中でもじゅうぶんに意識されている。作中で、メンバーのひとりは言う。

「もしかしたら、いつか本当に、武道館とかに立てるかもしれない感じだよね、今」「だけど、私たちって、武道館に立ったあとも生きていかなくちゃいけないんだよね」「武道館に立ったあとも、ハタチになったあとも」「アイドルじゃなくなったあとも、生きていくんだよ、私たちって」


 それでもなお、武道館は彼女たちにとって特別なものでありつづける。象徴としての武道館。
 本書で描かれるNEXT YOUは、具体的にどれかひとつの女性アイドルグループをモデルにしているというわけではなく、ももクロだったりさくら学院だったりモーニング娘。だったりスマイレージ(アンジュルム)だったり、さまざまなグループの要素がミックスされているが、武道館との関係性でいちばん直接的に参照されているのは、ハロプロの古参グループ、℃-uteだろう。もちろん、グループの性格はNEXT YOUとは全然違うし、なにより℃-uteが武道館に"たどりついた"のは2005年の結成から数えて9年目(ハロー!プロジェクト・キッズとしてハロプロに加わったときから数えると12年目)だったから、同列には並べられない。それでもあえて、ある重要な場面で、℃-ute武道館公演決定サプライズ発表をほとんどそのまま下敷きにしている点から、著者のアイドル愛(というかハロヲタぶり)が伝わってくる。場所も同じ、池袋サンシャイン噴水広場。実際、この小説を読んでいる途中、たまらなくなって本を閉じ、PCで再生したのが、アイドルリリイベ(リリースイベント)の聖地として知られるこの場所で2013年4月3日に行われた、℃-ute「Crazy 完全な大人」発売記念イベントの動画だった。


「ハロ!ステ#10」より(サプライズ発表は5分43秒から)。

 たまたま、本書を読み終えた翌日の4月26日には、渋谷公会堂で、その「Crazy 完全な大人」もセットリストに入っている℃-ute春ツアー「The Future Departure」があり、2階のファミリー席から、客船を模したステージを見下ろしながら、『武道館』のことを思い出し、℃-uteの歩んできた10年と、これからの10年について考えていた。
『武道館』のNEXT YOU もまた、武道館を通過し、さらにその先へと進んでゆく。彼女たちの物語が、構想の出発点であるドリームモーニング娘。の〈シャイニング バタフライ〉とどこでどうつながるのか。未読の方はぜひ小説を読んでたしかめてください。


ドリーム モーニング娘。 『シャイニング バタフライ』 (MV)

第7回 「ベリヲタでよかった」と、ベリヲタは言った。

【アイドル現場日記#4】2015年3月3日「Berryz工房ラストコンサート2015 Berryz工房行くべぇ~!」@日本武道館(ファンクラブ特別価格8300円)


「わたしたちBerryz工房は、来年の春をもちまして、無期限の活動停止に入ります」
 昨年8月2日、中野サンプラザのハロコン昼公演で、開幕していきなり、キャプテンの清水佐紀からこの発表を聞かされたときの衝撃は忘れられない。
 それから7カ月――。容赦なく時は過ぎ、3月3日、Berryz工房は日本武道館で最後のライブをおこなった。


 Berryz工房といっても、世間的には、「ええっと、ももち(嗣永桃子)のいるグループだっけ?」というくらいの認知度でしょうが(僕も1年4カ月前まではそうでした)、活動歴はちょうど11年。グループアイドル界では最古参となる。昨年6月には、「普通、アイドル10年やってらんないでしょ!?」という自己言及的なシングルを出し、「青春全部ささげた事は/誇りに思って生きていくわ」と歌った(つんく作詞作曲)。

 その歌詞どおり、Berryz工房は、メンバー全員がまだ小学生だった2004年3月3日にデビューを飾ってから、全員が20歳を過ぎる現在まで、途切れることなく活動してきた。過去11年間にリリースしたCDは、シングル36枚、アルバム13タイトルに及ぶ(ベスト盤4タイトル含む)。

 Berryz工房が生まれる母体となったのは、02年におこなわれたハロー!プロジェクト・キッズ(ハロプロ・キッズ)オーディション。合格した15人のうち8人が選抜されてBerryz工房となり(ひとり抜けて現在は7人)、残り7人は15カ月遅れで℃-uteとしてデビューした(現在は5人)。
 つまり、02年のオーディションに合格した小学生たちで構成された2グループが、12年半にわたりハロー!プロジェクトの中心で活動してきたが、その片方がとうとう表舞台から降りることとなったわけである。

 モーニング娘。やAKB48はメンバーの卒業と加入をくりかえしながら継続していくシステムだが、Berryz工房や℃-uteは、ほぼ同じメンバーでずっと活動している。そのため、11年前から(いや、キッズのオーディションの舞台裏がテレビで放送されていた12年半前から)彼女たちを応援しているファンも多い。そういう歴戦のベリヲタ(Berryz工房ファン)にしてみれば、Berryz工房はすでに人生の一部。活動停止したら、明日からどうやって生きていけばいいんだろうと......という嘆きがあちこちから聞こえてくる。

 僕の場合、Berryz工房の曲をちゃんと聴きはじめたのはほんの1年3カ月前。突然思い立って(というか、いてもたってもいられなくなって)はじめて単独ライブに行ったのは、デビュー10周年の当日、ちょうど1年前の3月3日だった。つまり、Berryz工房11年間の歴史のうち、リアルタイムで体験したのは最後の1年だけ。それでも、解散してからファンになるケースだってじゅうぶんありうるんだから、1年だけでも現場に通えたのはつくづくしあわせだったと思う。

 ベリ現場の特徴は、パフォーマンスの楽しさもさることながら、ベリメン(Berryz工房メンバー)とベリヲタの幸福な一体感にある。活動歴が長いので、曲によってコールのお約束が細かく決まっていたり、客の歌割り(ファンも一緒になって――ときには歌詞を変えて――歌うパート)が多かったり、振りコピ(曲ごとのダンスの身振り手振りのコピー)率が異常に高かったり。古参のハロヲタ(ハロー!プロジェクトのファン)ほど、「やっぱりベリの現場がいちばん楽しい」と言う傾向が強い気がしますね。反面、中野サンプラザ規模(キャパ2000人くらい)のホールコンサートに最適化されすぎて、新規のファンがつきにくくなっていたのかもしれない。
 いずれにしても、Berryz工房はメンバー同士の話し合いで活動停止を決断し、とうとう最後の日を迎えた。


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3月3日の日本武道館


 当日はひな祭り寒波が襲来し、凍えるような寒さのなか、グッズ販売ブースに朝から長蛇の列。メンバーそれぞれのソロTシャツとリストバンドのセット、生写真、ピンナップポスター、マイクロファイバータオルが7人分(いずれもソロ)、ラスト公演記念のパーカー、Tシャツ、マフラータオル、マイクロファイバータオル、うちわ、ポスター、ビジュアルブック......などなど、この日のためのコンサートグッズが大量に陳列されている。

 この列に並ぶ気力はないので、開演30分前に、日本武道館の看板前で同行者2人と合流。当欄第4回で書いた1月10日ハロコン昼公演のときと同じ中年書評家トリオです。ただし、今回のチケット手配は藤田香織が担当。ハロコンの中野サンプラザ1列目と交換でとってもらった座席は、東スタンド1階ファミリー席の最前列。北側のメインステージは右手に、武道館中央のサブステージは真横から見るかっこうになる(ステージの反対側、左側の南スタンド1階は関係者席で、コンサート中、℃-ute、モーニング娘。'15などのハロメンたちがサイリウムを振ってるのがよく見えました)。おお、武道館でこんないい席にすわるのははじめてかも!

 入場すると、席に着くヒマもなく、ハロー!プロジェクトの若手グループによるオープニングアクトがスタート。グループ名が発表されたばかりの研修生ユニット、こぶしファクトリー、4月にメジャーデビューするカントリー・ガールズ(の嗣永桃子抜き)、そしてJuice=Juiceがそれぞれ新曲を披露する。僕は、2月28日と3月1日に有明コロシアムで開催されたBerryz工房祭りに両日参戦して、3組とも新曲披露を観てるので、ここは冷静に通路で立ち見。

 着席するとほどなく開演時刻の午後6時になり、いよいよBerryz工房登場......かと思いきや、なかなか出てこない。なんでも、舞台裏では、プロデューサーのつんく♂がメンバーの前にあらわれて、手紙にしたためたメッセージを(喉を手術した影響か)スタッフが代読。それを聞いたメンバーが感極まって号泣したため、開演が20分遅れたという(日刊スポーツの記事より)。

 はてしなく続く「Berryz行くべぇ~!オイ!オイ!オイ!オイ!」コールのなか、ついにベリメンがステージに立つ。オープニングはド定番の6枚目シングル「スッペシャルジェネレ~ション」。
 カウントが始まると、客席を埋めたベリヲタは、間髪入れずに「スッ!」「ペッ!」の大合唱。「スッペシャルジェネレ~ション!」と1万人(推定)がイントロ部分で声を張り上げたところでベリメンの歌が始まる。Berryz工房のみならずハロー!プロジェクトを代表する曲のひとつだけに、テンションは一気にマックス。続くカッコいい系のナンバー「ROCKエロティック」でさらに盛り上がる。

 メンバー紹介VTRをはさんで、花柄ワンピースに衣裳チェンジして出てくると、かわいい系の曲を3連発。Berryz工房の楽曲資産は、主にこぶしファクトリーが受け継ぐ構想のようですが、「付き合ってるのに片思い」はぜひカントリー・ガールズに譲ってほしいですね。いやその、有明で観た「笑っちゃおうよ BOYFRIEND」と「ハピネス~幸福歓迎!~」があまりにすばらしかったので......。

 そしてMCのあとは、この公演のテーマソングともいうべき8枚目シングル「21時までのシンデレラ」。城のセットのてっぺんに上がったメンバーたちは、一瞬にして水色ドレスのシンデレラに早変わりする。
 門限に縛られる思春期の女の子の恋愛に託して、21時までしか(自主規制で)舞台に立てない中学生メンバーたちの"魔法の時間"を歌った曲ですが(2005年10月に卒業した石村舞波のラストシングルでもある)、今日のラストコンサートの終演予定時刻も21時。それとともに11年前にかけられた魔法が解け、ふつうの女の子に戻ってしまう自分たちをシンデレラにたとえる演出です。
 しかも、それに続くのが、貴方(ファン)との幸福な夢の時間の始まりを歌う笑顔いっぱいのメルヘンチックなラストシングル曲「ロマンスを語って」ですからね。ますます切なさが際立つ。



Berryz工房「21時までのシンデレラ」(2005年8月3日発売)MV


 しかし、そういうラストコンサート的な予定調和を平気で壊しにかかるのがBerryz工房。
 過去の映像をスクリーンに映してベリヲタの回想を誘い、しんみりさせたあと、まさかのモンキー衣裳(サルの着ぐるみ風)で登場し、「行け 行け モンキーダンス」を踊り狂う。2009年の秋ツアーでは「目立ちたいっ!!」のツアータイトルにひっかけて鯛の着ぐるみを着用したくらいなので、予想できたこととはいえ、まさか最後のステージでサルになるとは。ご丁寧に、マイクにはバナナつき。そして、モンキー姿の菅谷梨沙子がまた超絶かわいい。
 となりの席では藤田香織が「最後の最後にまたこんなにかわいくなるなんて......反則だよ......梨沙子」と笑い泣きしてました。
 サル姿で3曲歌ったあとのMCでも、夏焼雅が「こんなお城の前でサルの格好するなんて、ウチらだけだよね。℃-uteは絶対やんないもん」と述懐し、場内爆笑。客席の℃-uteも大笑いしながらメンバー同士で言葉を交わしてましたが、実際、こういう思いきりベタな笑いを積極的に引き受けるのがBerryz工房の個性かも(℃-uteのステージでもコント的な企画はありますが、サルや鯛までは振り切らない)。

 そしてラストスパートは、「ジリリ キテル」「なんちゅう恋をやってるぅ YOU KNOW?」「本気ボンバー!!」「世の中薔薇色」「ライバル」と鉄板曲をつるべ打ち。
 ベリヲタのコールが最高潮に達する「すっちゃかめっちゃか~」と「一丁目ロック!」で締めてアンコールに入ると、一転して静かな「Bye Bye またね」が来る構成。そして、メンバーひとりずつが、ベリメンとしての最後の言葉をファンに向かって語る。須藤茉麻が、「キッズのオーディションを受けた理由を聞かれるたびに、モーニング娘。のファンだったからと今まで説明してきたけれど、ほんとうは妹のついでに応募しただけ。当時は辻・加護の区別もついてなかった」と13年目にして衝撃の暴露をするひと幕も。

 そして、ラストシングル「永久の歌」をはさみ、ダブルアンコールで披露されたほんとにほんとのBerryz工房ラスト曲は、最後にリリースされたベスト盤ボックスに収められた最後の新曲「Love together!」。
 Berryz工房の解散をストレートに歌った歌だが、舞台下手にはグランドピアノが出現。テンポを落としてピアノ・ソロ用にアレンジしたバラード調の静かな「Love together!」を生伴奏(上杉洋史)で歌うという反則技の演出だ。
 しかも、喉を痛めている梨沙子は、いつもの力強い歌声とはまったく違う、絞り出すような、震えるような、ところどころかすれる細い声で一音一音を噛みしめながら、胸を締めつけるような泣き顔のまま歌いはじめる。いつも通りにはっきり明るく、微笑みをたたえて歌う嗣永プロとの対照の妙。客席からは、励ますように「梨沙子!」の声。交替にソロパートを歌うメンバーの名前をコールするベリヲタの声がしだいしだいに大きくなってくる。

 いやいやいや、さすがにここは静かにじっくり聞くところでしょ! そんな野太いコール入れたら台なしじゃん! と最初は思ったのに、挾雑物でしかないはずのベリヲタのコールがしだいにベリメンの歌声と調和して聞こえはじめる不思議さ。そして、最後の斉唱パートでは、客席全体がひとつになり、自然発生的に声を合わせて歌いはじめる奇跡の瞬間が訪れる。これこそまさにBerryz工房の魔法。

 曲が終わり、「11年間、ほんとうにどうもありがとうございました! Berryz工房でした!」という清水キャプテンおよびメンバーの声に応えるように、客席からも「ありがとう!」「ありがとう!」「ありがとう!」の声と拍手。それに続いて、「ベリヲタでよかった!」という魂の叫びが武道館のあちこちに響き渡る。

 現場の経験はたった1年でしたが、最後に小さな声で僕も言いたい。「ベリヲタでよかった」



「ハロ!ステ#107」より、Berryz工房「Love together!」(2015年3月3日、日本武道館)

第5回 「へんな人たち、サンキュー」と、道重さゆみは言った。(後編)

« 前編はこちら

 ......と、前置きが長くなったが、〝そういう欠点まで含めて道重さゆみが好き〟というさゆヲタ目線で振り返ると、横アリの卒コンは、まさに〝道重さゆみ性〟が凝縮された2時間半だった。

 前半は、ツアーのセットリストどおり、明るく楽しい雰囲気で進行。ゲストコーナーに、OGの中澤裕子、ハロプロ・リーダーを道重から引き継ぐ℃-uteの矢島舞美、そして同期の田中れいな(モーニング娘。からは卒業したが、自身が率いるガールズバンドLoVendoЯのボーカルとしてアップフロント関連事務所に残留)が出てくるところまでは予定調和。矢島との他人行儀なやりとりをさらりと流し、田中れいなとの6期トークも脱線させずにまとめたあたりで、よそ行き感がますます強くなる。
 どうやらサプライズ(田中れいなといきなり「大きい瞳」を歌い出すとか)はないらしい――とわかったところで、「ああ、今日はそういうモードなのね」と、やや冷静な気分をとりもどす。

 なんというか、理想の結婚披露宴を夢見て研究を重ねてきた花嫁の綿密な机上プランが、周囲の協力を得て粛々と進行していく感じ? モーニング娘。卒業メンバーを送り出す側として、もっとも多くの卒業コンサートを経験してきた道重は、いわば卒コンのプロフェッショナル。自分のときは完璧な卒コンを......と意気込んでいたことは想像にかたくない。実際、その思いが強すぎて、緊張は極限に達していたのではないか。
 直前のFCイベントで「今日はなんにも考えてません!」と強調していたのも、理想のシナリオに沿って分刻みに進行する横アリ卒コンを念頭に置いてのことだろう。

 ところが、この完璧な構成台本を裏切ったのは、ほかならぬ道重さゆみ自身......というか、その肉体だった。
 前述のトークコーナーの直後、「シルバーの腕時計」から始まるロングメドレー(回がわりで披露していたメドレーすべてを合体させた特別版)全14曲の途中で足が攣り、自分の見せ場であるソロ曲「ラララのピピピ」あたりから、ほとんど踊れなくなってしまうのである。
 一瞬だけ痛そうな表情を見せるが、すぐに笑顔に戻り、せいいっぱいのパフォーマンスを続ける道重。ノンストップメドレーなので、舞台からハケるタイミングがない。次の曲はメインステージから花道を通ってセンターステージに移動するはずだが、他の9人がセンターに移っても、ひとりだけメインに残り、自信たっぷりの表情ですっくと立つリーダー。

 スカパーの生中継のカメラは、センターの9人を舐めてメインの道重を撮る(本来の撮影台本にはない)困難なアングルをなんとかおさえることに成功してますが、BD版の映像は、まるでそれが本来の演出だったかのような編集に。現場でも、遠目に見ているだけだと足の故障に気づかず、なるほど、卒コンだから、1人と9人のこういう配置にしたのね、と思った客も多かっただろう。

 問題は、道重さゆみと譜久村聖(ふくむら・みずき)のデュエット曲、「好きだな君が」。メインステージとセンターステージに分かれてこの曲を歌うわけにはいかない。道重と並んで歌うため、直前の「ブレインストーミング」が終わるのを待たずにセンターステージを離脱して、ひとり花道を走り、メインステージへと向かう譜久村聖。信頼に満ちた笑顔で次期リーダーとなる後輩を迎える道重さゆみ。このとっさの行動(スタッフの指示ではなく、独自の判断だったという)は、のちに〝フクムラダッシュ〟と名づけられて、新たな伝説となる。譜久村にとっても、モーニング娘。次期リーダーとしての資格をファンに認められた瞬間だったかもしれない。

 ともあれ、頭の中でいろいろ計算して綿密にシミュレートしたにもかかわらず、結局は思ったようにいかず、また失敗しちゃったとファンの前で告白することがさらなる支持につながるという道重システムが、足の怪我によって、はからずも最後の最後でまた実践されたことになる。
 卒業セレモニー中の暗転を含め、この負傷をめぐるドタバタのほぼすべてが、パッケージ商品であるBD/DVDからはきれいに削除されているのも、道重さゆみらしい美意識のあらわれか(フクムラダッシュだけは、ワンカットで収められている)。

 いずれにしても、卒コンでのこの負傷劇は、結果的に〝道重さゆみ伝説〟の総仕上げになった。

 朝日新聞読書編集長の鈴木京一(1963年生まれ)は、WEBRONZAに寄稿した[2014年 アイドルイベント ベスト5]の1位に道重卒コンを挙げ、〝崩れ落ちる道重さゆみに、「巨人の星」を見た〟という見出しのもと、この負傷劇に触れて、

 確かに卒業直前の道重のかわいさは妖艶の域にまで達していた。モーニング娘は週末ごとに昼夜2公演のコンサートがあり、この数年はダンスが激しくなっていた。
 かわいさを維持しながら、これらの仕事をこなすのは容易ではないだろう。以前から道重は雑誌インタビューで「身体が痛い」などともらしつつ、「モーニング娘のためなら寿命が縮んでもいい」と言っていた。
 腕に負担がかかるのを承知で大リーグボール3号を投げ続けた星飛雄馬のように、道重は「カワイイ」に殉じたのではないか。卒業後、道重は無期限休養を続けている。芸能界には戻ってこないように思えてならない。

 と書いている。道重さゆみがコンサート中に足を攣るのはこの日が初めてではないし、本人も最後のMCでファンに謝罪していたように、最後の最後、肝心なところでまた失敗しちゃって、あーあ......という話なのだけれど、それがまるで江川卓の〝禁断のツボ〟事件(あれもフィクションだったようですが)みたいに語られてしまうのも道重さゆみの魔力だろうか。

 そして、モーニング娘。伝統の卒業セレモニー。たいていは卒業メンバーが手紙を読み上げたりするもんですが、道重さゆみは完璧に暗記したスピーチを、完璧な間合いと抑揚で披露した。この大一番のために、家でどのくらい練習したんだろうと思うと、内容よりもその努力に胸が熱くなる。その一部を抜粋して、長くなりすぎた本稿を締めくくろう。

 ......さゆみのファンの人たちは、へんな人が多いです。
 変わり者の集まりだなって、いつも思ってました。だって、ほかに歌やダンスが上手いメンバーはいるし――こんな大事な日に足を痛めたりはしないメンバーだし、ほかのみんなはね――それに、さゆみなんかより魅力的な芸能人はいっぱいいます。そんな中で、さゆみのことを応援してくれました。たいして何もできないのに、口だけは一人前だし。顔は、まあ、かわいいい方だと思うんですけど(笑)、そういうこともぜーんぶ自分から言っちゃうし。こんなアイドル、ふつうは応援したくないでしょ? それなのに、さゆみのちょっと変なファンの人たちは、晴れの日も、雨の日も、大雪でも、台風がきても、嵐の日だって、さゆみに会いにきてくれた。全力で応援してくれた。勇気くれた。パワーくれた。やさしさもくれましたね。強さもくれた。自信もくれた。安心感もくれた。そして、愛をくれた。
 みんなに出会えてよかったです。さゆみのことを見つけてくれて、出会ってくれてありがとう。モーニング娘。になって、みなさんと出会えたから、道重さゆみが存在する意味があったと思いました。モーニング娘。になるために生まれてきたんだって、生まれてきてよかったなーって思いました。さゆみのファンの人たちが、ほかの誰でもない、みんなでよかった。

 へんな人たち、サンキュー。


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卒コンで販売された道重Tシャツと、ラスト曲「HAPPY大作戦」中に天井から降ってきたテープ。道重の手書きで、「さゆみ、みんなのことがだ――――いすき♡♡ ......このテープ......ちゃんと持って帰ってねーー!!(笑)」と記されている。

第5回 「へんな人たち、サンキュー」と、道重さゆみは言った。(前編)

【アイドル現場日記#3】2015年11月26日「モーニング娘。'14コンサートツアー2014秋GIVE ME MORE LOVE~道重さゆみ卒業記念スペシャル~」@横浜アリーナ 7,500円(ヤフオク落札価格33,000円)

 なんでも、2月11日に発売された道重さゆみ卒業コンサートのBD/DVDが異例の売れ行きだとか。個人的には、BD版の特典映像だけでもお値段分の価値があると思いますが(したがって、購入はBD推奨)、せっかく話題になってるので、今回はまたまた予定を変更し、昨年11月26日に横浜アリーナで行われたこのコンサートの現場レポートを番外篇的にお届けする。

 あれから3カ月近く経って、モーニング娘。は'15になり、カントリー・ガールズも始動し、研修生の新ユニットが誕生するなど、ハロプロはすっかり様変わりしてますが、BDをデッキにかけると、たちまち〝あの日〟にひきもどされる。


 2014年11月26日、横浜は雨だった。道重さゆみの卒業を惜しむように、冷たい小糠雨が、長い入場列に並ぶ人々の肩を濡らしていた......。

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雨の横浜アリーナ、入場列


 もっとも、この会場にたどりつくまでがたいへんでした。モーニング娘。人気メンバーの卒業コンサートは、毎回、たいへんなチケット争奪戦になるわけですが、今回もその例外ではない――どころか、ファンクラブ経由のチケット申し込みはまれに見る落選祭り。
 ファンクラブ先行にはずれ、サイド席の追加販売にはずれ、一般発売は一瞬で予定数終了。あとはネットオークション(またはチケット売買サイト)かチケットショップに頼らざるを得ない非常事態に。平日公演だし、スカパーの生中継とライブビューイングまで決まったというのに、チケットの値段はどんどん高騰。直前には、いちばん遠い席や立ち見席、サイド席にも3万円の値がつくありさま。どのタイミングでどうやって買うか、デイトレーダー的な相場感と判断力が求められたわけですが、結局、ライブ当日の2週間前に、アリーナDブロックのチケットを定価の4倍くらいで入手しました。
「高いよ!」と思うか、「意外と安く買えたのね」と思うかは人それぞれ。まあ、道重さゆみを追いかけてきた1年間のフィナーレだと思えばぜんぜん高くない。

 ここで、この1年の軌跡をざっと説明しておくと、出発点は、2013年11月17日の中野サンプラザ。「モーニング娘。コンサートツアー2013秋~CHANCE!」昼公演のソロメドレーで、道重さゆみが「歩いてる(updated)」「ラララのピピピ」を歌うのを観た瞬間。



「ハロ!ステ」#38より、「歩いてる(updated)」「ラララのピピピ」(2013年10月13日、岸和田市立浪切ホール)


 フィリップ・K・ディックは、ピンクの光線に打たれる神秘体験をきっかけにキリスト教神学とグノーシス主義に傾倒、やがて『ヴァリス』を書くことになるわけですが、僕もこのとき、(文字どおり)ピンクの光線に打たれ、一瞬にして〝さゆヲタ〟に転向したのである。その瞬間まで、道重さゆみ個人には、ほとんどなんの関心もなかったにもかかわらず。新約聖書流に言えば「大森の回心」。

 いったい彼女のどこがどうすばらしかったのか、縷々説明すべきところですが、なにしろ神秘体験なので、未体験の人に理解してもらうのは容易なことではない。「道重さゆみは如来である」とか言い始めると、それだけで本を一冊書かなければならないので(いつか書く気満々ですが)、ここではとりあえず、アイドルのコンサートに行ってるとなんだか神秘的な体験をすることもあるんだなあ、くらいに思っててください。


 ともあれ、その日からモーニング娘。やハロー!プロジェクトおよびハロプロ各グループのライブに通いはじめ、生まれて初めての握手会やチェキ会やFCイベントにも参加。最後の秋ツアーは、9/21のハーモニーホール座間を皮切りに、9/30武道館、10/1武道館、10/13静岡、11/20浜松、11/26横アリと、6公演に入ったんですが、卒業が近づくにつれてピンクの道重Tシャツ着用者が増え、横アリではほぼピンク一色に。歴戦のハロヲタも驚くほどの盛り上がりで、道重さゆみ伝説は世間的にもピークに達した。

 歌もダンスも不得意だった〝後列干されメン〟の少女がトーク力を武器にどん底から這い上がり、ついに〝モーニング娘。史上最強のリーダー〟とまで呼ばれる存在になる――というのが〝道重さゆみ伝説〟のあらすじ。

 2013年1月から2月にかけて、ファンが2ちゃんねるに投稿した文書「道重さゆみ伝説」(完全版は「ハロペディア」にまとめられている。http://hellopedia.net/index.php?%C6%BB%BD%C5%A4%B5%A4%E6%A4%DF%C5%C1%C0%E2)が、伝説化の始まりだった。道重さゆみ自身がこの文書を読み、「ぜんぶ実話なんですよ、基本的には」と認めたこともそれに拍車をかけた。

 あらためてこの「伝説」を読むと、久住小春が悪役にされすぎだし、いくらなんでも(ほとんど「ドキュメント女ののど自慢」的なまでに)感動ドラマ化しすぎじゃないかと思うんですが、こういう伝説が書かれたのも、道重自身が、ラジオで自分の弱い部分を積極的に語りつづけたからこそ。

 たとえば、ソロのラジオ番組「モーニング娘。道重さゆみの今夜もうさちゃんピース」で、ブログの更新に熱中するあまり、友情にひびが入りかけたときのどす黒い感情を6分余にわたって赤裸々に吐露した回。気持ちをファンに伝えるためにブログを書きたいと事務所に直訴しつづけてついに書ける権利を得たのに、同期の田中れいながあとから気軽にはじめたブログがアメブロでランキング1位になり、みんなから祝福されたことで嫉妬にかられ、自分がGREEでやってるブログの1位は守ろうと必死になり、その結果、一番の親友だった亀井絵里とろくに話もしなくなっていた......。そのときの気持ちや感情だけでなく、計算高い部分まで含めて自分をさらけだすことでファンに対する信頼を示し、それによって共感を呼ぶ。それが道重さゆみの個性だった。

「卒業の年の一番の思い出は?」と訊かれて、ファンクラブのバスツアー(道重さゆみバースデーファンクラブツアーin山口)と即答するくらいファンを大事にしている――というか、ファンを本気で愛しているのも道重さゆみの特徴。「自分を好きでいてくれる人が好き」という自己愛の発露ともとれるが、その愛が、この連載の1回目に引いた台詞のとおり、禿げ気味のおじさんたちにまで(しかも営業トークではなく)及んでいるところに彼女のすごさがある。

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第3回 「アイドルにはまってしまった40代男ですが、妻から離婚を言い渡されました」と、モノノフは言った。


 〈本の雑誌〉の浜本発行人(同世代)に初回の原稿を送ったところ、
「普通の50のおっさんは、大森さんのようにアイドルの世界に戻るにはハードルがいっぱいあるはずで、たとえば家族とか会社の同僚、上司の目とか、とくに妻や娘の冷ややかな目線をどうクリアするかとか、金の問題も含め、一般50代が参戦する際の、そのあたりの障害をどうすれば取り除けるのか、のヒントなどを具体的に書いていただきたいと思います」という、もっともなリクエストがあったので、今回は予定を変更して、この問題をとりあげたい。

 周囲の理解というのはたしかに厄介な問題で、アイドルのライブ鑑賞が、ゴルフや釣りや囲碁のように、中高年の趣味として正しく認知されているかというと、必ずしもそうではない。まだまだ市民権を得たとは言えない状態にある。この悲しむべき現状を少しでも改善したいという意図もあって、この連載をはじめたわけですが、いまのところ、中高年がアイドルにハマるための最大の障害は、周囲の冷たい視線かもしれない。いや、中高年にかぎらず、全年齢のドルヲタにとって根源的な問題だとも言える。

 たとえば、この連載の第1回が「Web本の雑誌」に掲載されたまさにその日、村上春樹氏が読者の質問・相談その他に答える期間限定サイト「村上さんのところ」では、奇しくも、「アイドルオタクの夫」に関する相談が公開されていた。

 相談者は結婚4年の女性(32歳、主婦)。いわく、
「主人が3年くらい前からアイドルにハマっており、休みの日はアイドルばかり」(中略)「今日はチェキを撮っただの、握手をしただの楽しそうに話してくるので、話はきくのですが、正直イライラすることもあります」
 と、内心けっこうむかついている様子。夫のほうが年下だというから、旦那の年齢は30歳前後か。現場に一緒に行ったりもしているので、どうやらこの旦那は、奧さんが怒っているとは夢にも思わず、熊本のご当地アイドルを天真爛漫に応援しているらしい。
「ギャンブルやキャバクラに行くわけではないので(中略)これくらいは広い心で見守るべきか」というのが直接の相談内容。
 村上先生のお答えは、「イラっとすることもあるでしょうが、できるだけ温かく見守ってあげてください」というもの。その理由は、

 たしかにギャンブルやキャバクラにはまるよりはましです。また逆に「あまりにも正しいこと」にはまっちゃうよりもいいかもしれません。「あまりにも正しいこと」にはまっちゃうと、ときには危険です。

 そうだよね、ネトウヨになるよりドルヲタのほうがぜんぜん無害だよね――と、つい頭の中で翻訳しちゃうわけですが、たいへんもっともなご意見。ご当地アイドルの応援だと、交通費もそんなにかからないし、チェキも握手も安上がりだし、趣味としては経済的じゃないですか。
 しかしまあ、いつも笑顔で受けとめてると旦那が増長するだけなので、「あんたが若い子と握手した話をあたしが楽しく聞いてると思ったら大まちがいだよ!」くらいのことは一回ガツンと言ってもいいんじゃないでしょうか。アイドルにかぎらず、なにかにハマるとまわりが見えなくなりがち。ドルヲタ諸氏におかれましては、あなたが好きなアイドルのことをみんなが愛しているわけじゃないという事実は忘れないようにしましょう(と、自戒も込めて)。つねに一定のうしろめたさを胸に秘めていること。堂々としすぎてはいけません。

 配偶者のこうした不満は、小火のうちに消し止めておかないと、深刻な事態に発展しかねない。2012年7月に「yahoo!知恵袋」に寄せられた相談は、その悲劇的な例。いわく、「アイドルにはまってしまった40代男ですが、妻から離婚を言い渡されました

 ももクロにハマり、Tシャツやペンライトも買ったものの、家族にはずっと隠していた。あるとき意を決して妻に打ち明けたら、「家族を応援せずに、娘ほどの子を応援する、ロリコン、変態」「若いアイドルにはまった気持ちの悪い旦那とは一緒に住みたくない」と言われた――という、なんとも同情すべき事例。ももクロは、アイドルの中では比較的〝性的対象〟度合いの低いグループだし、いまや国民的な人気なので、ライブでももクロ応援するくらいでそこまで言われるのか......と思う人もいるでしょう。
 AKB48やSCANDALなら許すけど、ももクロ好きであーりん(佐々木彩夏)推しの夫は許せない――という、こちらの奥さまのロジックは、村上さんに相談した32歳の奥さまの「キャバクラにハマるよりご当地アイドルのほうがマシ」という考えのたぶん対極にある。女を売りものにしていないグループにハマるほうがむしろ悪質、みたいな? このあたりの論理を考察しはじめると危険な領域に踏み込みそうな気がするので、いまは棚上げ。どのみち理屈で説得することは不可能なので、議論しようとしないほうがよさそうです。

 夫がアイドルにハマったことを理由に妻が離婚を考えるというのはよくある事例らしく、同じ「Yahoo!知恵袋」や「発言小町」を〝アイドル 離婚 夫〟などで検索すると同様の投稿多数。
 さらに、昨年3月9日放送のNTV「行列のできる法律相談所」では、そのものずばり、「アイドルオタクの夫と離婚できるか!?」 という事例がとりあげられている。
 妻側の主張によると、「家中アイドルグッズだらけ」「いつもアイドルの曲をかけている」「アイドルの追っかけで、週3日家を空けることもざら」「月収30万円のうち、10万円はアイドルに注ぎ込む」「大勢のヲタ友を家に連れてくる」......と、こちらはかなりひどい例。これだけひどくても、離婚できるかどうかについて、4人の弁護士の判定は五分五分(2対2)で分かれているので、ちょっと安心しますね。
『アイドルに夢中の夫が気持ち悪い』そんな理由でも『離婚』できるか?」という質問に対する弁護士ドットコムの回答によれば、「アイドルに夢中だ」という理由だけで離婚することはむずかしく、「夫婦関係が崩壊したといえるかどうか」がポイント......とのこと。

 そうは言っても、身近な相手にここまで拒否反応を示されるとしたら、その前の段階で危険信号を察知して、あとは隠し通すしかないかも。アイドルのために妻も子も捨てるというのはある意味いさぎよい態度ですが、きっと後悔するでしょう......って、あんまり役に立つ対策がなくてすみません。

 もっとも、いまはスマホひとつあれば、ネット上のアイドル動画はもちろん、CD音源もDVD映像もとりこんで楽しめるので、在宅でこっそりヲタ活に励むことはむずかしくないし、月に1回くらいなら適当に口実をつくってライブに参戦することも可能。応援するアイドルによっては、無銭イベントやワンコイン・ライブもたくさんあるので、小遣いの範囲内でやりくりできるはず。家族に秘密を持つのもそれはそれで楽しいかも......。

 しかしまあ、離婚を切り出されるまで嫌悪感を持たれるケースは、たぶん少数。50代、60代になってしまうと疑似的な恋愛対象でさえなく、子供や孫を見るような感じでライブに通っているのだという言い訳が(実態はともかくとして)一定の説得力を持つので、20代、30代の既婚者の場合より周囲からあたたかく見守ってもらいやすい。子供もある程度大きくなれば、休みの日もそれぞれ勝手に出かけていくので、お父さんお母さんは時間が比較的自由になるでしょう。というか、話は逆で、当コラムでは、そういう余暇を満たす趣味として、アイドル鑑賞を提案しているわけですね。とくに事情がないなら、アイドルが好きだということは家族にも職場にもオープンにして、老若男女問わず、少しずつ同好の士を増やしていくことをお薦めします。その方法についてはいずれまた。

第2回 「旭のほうのね」と、川村あやのは言った。

【アイドル現場日記#1】2015年1月2日 はちきんガールズ@イオン臼井店(千葉県)篇

 ハロヲタのお正月は中野サンプラザのハロコンから始まる......はずなんですが、ファンクラブ先行でとった 「Hello! Project 2015 WINTER」のチケットが1月4日と10日だったので、2015年の初現場は、まさかのはちきんガールズ。

 わたしの生まれ故郷である高知発のアイドルっていうことで気になってたんですが、去年の東京アイドルフェスティバル (TIF)では不覚にも出番を見逃したので、ライブは未体験。正月にはちきんガールズが出演するステージでもないかなと、ふと思 い立って元日の夜にチェックしてみたところ、おお、2日に千葉のショッピングモールで無料ライブがあるじゃないですか。会場は、 船橋から京成線で10分くらいのイオン臼井店。メンバーのツイートによると、ライブの1回目は午後2時開演らしい。
 この正月は、仕事を口実に、妻子を栃木の妻の実家に残し、ひとり先に東京に戻ってきてるから、誰に断ることもない。臼井 ならうちからわりあい近いしね。

 というわけで、正月2日の午後、西葛西駅から、東葉高速鉄道直通の地下鉄東西線に乗り、京成線に乗り換えて臼井駅で降 り、目の前のイオンへ。中に入ると、マジシャンの人が手品ショーの真っ最中。どうやら、演歌と手品とアイドルがワンセットのお正 月特別イベントが2回行われる模様です。

 しばし待つうち、はちきんガールズ登場。高知県観光特使にして、海洋堂イメージガール(高知出身の宮脇社長が同郷のよしみで応援しているらしい)。高知県出身のヲタクとしては推さないわけにいかないでしょ。地元の高校野球チームを応援するぐらいなら、地元のロコドル応援するほうがよっぽど楽しいと思うけどなあ。はちきんガールズは、ローカル・アイドル人気を定着させた「あまちゃん」の公式サポーターに就任したのに続き、NHK『恋する地元キャンペーン』サポーターの高知県代表にも選ばれている。四国のご当地アイドルでは愛媛県のひめキュンフルーツ缶が有名ですが、はちきんガールズだって負けてないのである。

 もっとも、はちきんガールズは昨年、東京に本拠を移し、高知と行ったり来たりしながら活動しているそうなので、すでに地方アイドルを脱皮し、全国区のライブアイドルとして新たな挑戦の真っ最中。その舞台裏を取材した高知さんさんテレビ制作のドキュメンタリー「脱藩、巡礼、負けないチカラ ~たとえば ある ご当地アイドルのかたち~ はちきんガールズ」が第23回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品として昨秋、フジテレビ系で全国放送された(ネットでも見られます)。

 プロデューサーは、かつて劇団四季の女優だった門脇幸。彼女が故郷に戻って開設した芸能スクール、シエロクラブの生徒から選抜されて2010年に「はちきんガールズ」が誕生した(母体になったのは、四国アイランドリーグplusに所属する野球チーム、高知ファイティングドッグスのチアグループ)。いまはその妹分にあたる「やまももガールズ」も活動中。地方の芸能スクールといえば、アイドル界では、Perfume、中元すず香(BABYMETAL)、中元日芽香(乃木坂46)、鞘師里保(モーニング娘。'15)、まなみのりさetc.を輩出したアクターズスクール広島が頂点に君臨してますが、シエロクラブにもぜひがんばってほしい。

 はちきんガールズは4人組ですが、現在、リーダーの平田伊梨亜(いりあ)が4月までオックスフォード大学(!)に短期留学中のため、今日のステージは3人編成。客席は、座れるスペースが20人分くらい。2列目の中央が空いてたのでそこに座り、うしろに立っている"おまいつ"(「おまえいつもいるな」の略。ライブ常連の、いわゆる追っかけ組)とおぼしき数人の方々の掛け声を参考に控え目に手を振り、声を出す。YouTubeで予習してるので、曲はだいたいわかります。

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 初期のかわいい系の代表曲「がんばるココロに恋は咲く」の間奏になると、うしろのヲタのあいだからにわかに湧き起こる力強い胴間声。

「土佐の荒波打ち砕き/熱き血潮をみなぎらせ/全身全霊全力前進/煌めけ我等がはちきんガールズ!」

 このMIX(というか口上)を背中にプリントしたパーカを着てる人も見かけましたが、あれは作者ご本人でしょうか。MIXといえば、AKB48で広まった「タイガー! ファイヤー! サイバー! ファイバー! ダイバー! バイバー! ジャージャー!」が定番ですが(ハロプロの現場では暗黙の禁止事項なので、いまだに慣れない)、対バン形式の(複数組のアイドルが出演する)ライブなどでオリジナルのMIXを打つ場合は、スケッチブックなどに書いてステージの前で掲示したりするみたいです。

 よさこい節をとりいれた「日本列島夢前線」では、振りに鳴子が使われてて、応援団も持参の鳴子を打ち鳴らす。今日の大森は、このライブに備えて「高知家」のTシャツ着てきたんだけど、しまった、鳴子も持ってくればよかった!


 はちきんガールズの楽曲は、「はりまや橋で待ち合わせ/ひろめ市場で食事して/話が弾めば桂浜」/じゃじゃ馬じゃじゃ馬HACHIKIN GIRL」ではじまるテーマ曲を筆頭に、高知ローカルだったり、高知の物産が登場したりする楽曲が多いのが特徴。わたしが好きなのは、高知名物のパンをフィーチャーした「帽子のかたちのぼうしパン」。PVには高知城、帯屋町、ひろめ市場、はりまや橋、高知駅などが登場、観光Vとしても優秀です。


 YouTubeを「はちきんガールズ」で検索すると、他にも膨大な量のライブ動画が上がってますが、吹きさらしの駐車場とかスーパーの前とか物産展の会場とか、あらゆる場所でライブの場数を踏んできた経験のおかげか、今日のパフォーマンスも堂々たるもの。ステージごとに衣裳もセットリストも変え、MCは土佐弁で通し、司会を入れずに3人だけできっちり笑いをとる。
 はじめてはちきんガールズを観るおじいちゃんおばあちゃん、家族連れが大半なので、口で言うほど簡単じゃないですよ。ちなみに高知市生まれ・高知市育ちの大森としては、「ここのイオンは高知のイオンみたいな感じやき、なんか落ち着くねえ」と言うひなこに、あやのが小さな声で「旭のほうのね。SATYの」とフォローしたのに大笑い。つまり、新しくできたイオンモール高知じゃなくて、ニチイ時代からある歴史の古いイオン高知旭町店(うちの実家のすぐ近所)のほうですよ、とわざわざ念を押したんですが、それ、だれも気にしてないから!

 ライブ終了後は物販。ライブアイドルの場合、むしろ物販のほうがメインだったりすることもあるらしい。はちきんガールズご本人の手から、最近のCDを2枚買って、サインしてもらいました。

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左から梶原妃菜子(ひなこ)、石川彩楓(あやか)、川村あやの


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上「冒険はじまる。」 下「偽りの天国はイラナイ」


 ちなみに対バン(?)の乾英里香さん(えりぽん)は、2011年8月21日『華よ咲け』『花散らしの雨』でウィングジャパンよりメジャーデビューした、高知県宿毛市生まれの演歌歌手。「笑っていいとも」に出演し、「生放送で「ペガサス幻想」歌って(採点機で)100点出す」という超難題を一発クリアした人だけに、歌はめちゃくちゃうまかったですね。ひとりでたいへんだと思いますががんばってください。

第1回 「禿げ気味のみなさああん!」と彼女は言った。

 時は2013年11月28日。ところは日本武道館。「モーニング娘。コンサートツアー2013秋~CHANCE!~」のファイナル公演、最後のMCでマイクを握ったモーニング娘。8代目リーダーの道重さゆみは、先輩も同期もいない初めてのツアーで不安だったけれど、蓋を開けてみると大丈夫でしたと語り、「なぜだと思いますか?」と客席に問いかけたあと、
「それは、後輩たちが頼もしくなっていたからです」と答えて、キャリアの浅い10代のメンバーたちを落涙させた。

 思えばこの名台詞が翌年の卒業発表への伏線だったわけですが(後輩が立派に成長したので、もういつ辞めても大丈夫、の含意がある)、ここで紹介したいのは、この感動シーンの直後、道重さゆみが客席に向かって放った強烈な煽り。後輩メンバーに続いて武道館を埋めつくすファンに感謝を捧げる流れで、
「きょうここにいる男性のみなさん」ウォーウォーウォーウォー(客席の男性の歓声)
「女性のみなさん」キャアアアキャアアキャア(客席の女性の歓声)
「ちびっこのみんな-!」ウオオウオオウオオ(客席の男性の野太い歓声)これに対し、客席を指さして、「違うでしょう!」と叱りつけたあと(ここまではお約束)、
「そして......禿げ気味のみなさああん!」
 一瞬遅れて響く、ワワワワワワーーンの大歓声と笑い声。
「ほんとうにほんとうにみんなのことが大好きです、どうもありがとう! 道重さゆみでした!」

 1万人の聴衆を相手にまさかの禿げいじりが成立するのは、ファンとの間に強固な信頼関係があればこそ。ヲタのことはわたしがいちばんわかっているという(綿密なリサーチに基づく)絶対の自信が、道重さゆみ人気を支えている(事務所はそこまでの確信が持てないらしく、後日販売されたライブBD/DVDでは、この禿げいじり部分だけ、きれいにカットされてました)。

 実際、この「禿げ気味のみなさん」発言を受けて、ネット上では、「前の(席の)お爺ちゃんが喜んで反応してたwww」とか、「どうせお前らさゆにいじられるためにわざと禿げてるんだろ?」とか、「俺も早く禿げたい」とか、「なんで俺行かなかったんだ 何のために禿げてんだよ俺クソッ」とか、「この頭を姫様は働き者の良い頭と言うてくれたんじゃ」とか、さまざまな熱い反応が観測された。

 道重さゆみの卓越したトーク力に関する考察はまた別の機会に譲るとして、この発言の背景には、モーニング娘。ファン、なかんずく道重さゆみを強く推す"さゆヲタ"の中には("さゆ爺"と呼ばれる有名ヲタを筆頭に)年配の男性がけっこう多いという事実がある。わたし自身、中野サンプラザの娘紺(モーニング娘。コンサート)に初めて行ったときは、客層の幅広さ(ティーンの女の子たちから、どう見ても60代以上の白髪紳士を含め、自分より年上の男女も多数)に驚いたもんですが、つまり何が言いたいかというと、アイドル・コンサート観賞は中高年の趣味としてちゃんと成立しているんだってこと。

 この1年、ハロプロ(ハロー!プロジェクト。いわゆる「つんくファミリー」とほぼ重なる)を中心に、いろんなアイドル現場(ライブ、FCイベント、フェスなど)に足を運びましたが、まわりを見渡して、自分がいちばん年上だとか、「しまった、場違いなところに来ちゃったぜ」とか思ったことは一回もない。
 無料イベントやオールスタンディングのライブハウスはいざ知らず、それなりにお金のかかる(とくにハロプロ系はわりあい高額です)ホール・コンサートでは、お客の平均年齢もそれなりに高くなる道理。うちの妻(1964年生まれ)はももクロ、BABYMETAL、武藤彩未なんかの現場によく行ってますが、やっぱり同世代の客は男女ともにたくさんいるという(ただし、大手でも、SUPER☆GiRLS、Cheeky Parade、GEMなどエイベックス系の現場はけっこう客の年齢層が若いらしい)。

 いい年してアイドルにハマって恥ずかしくないのかね的な声が漏れ伝わってくることもありますが、そもそもいい年してSFで食ってるしアニメも観てるしライトノベルも読んでるから、いまさら動じない。世間体はともかく(この問題についてはいずれまた)、大森の年齢(1961年生まれ、もうすぐ54歳)だと、天地真理、南沙織、山口百恵、松田聖子、小泉今日子、ピンク・レディ、キャンディーズから、おニャン子クラブ、モーニング娘。などなどを通過してきているわけで、アイドル文化に対する抵抗感はぜんぜんない......というか、その気になればすぐ(自分でも意外なほど簡単に)現場復帰できる。対アイドルに関して、年をとったと感じることは(オールスタンディングのライブハウスはきついとか、いくら無銭イベントでも長時間並びたくないとか、体力的な問題を別にすると)あんまりない。道重さゆみはキャリアが長いから中高年のヲタが多かったのかというとそういうわけでもなく、ハロプロのもっと若いグループのFCイベントがおじさんたちに埋めつくされていたりする。

 要するに、中高年にとっても、アイドルの現場は怖くないってこと。アイドルはわりと好きだからネットで動画観たりDVD買ったりはするけど、コンサートに足を運ぶのはちょっと......と思ってる人も多いでしょうが、ひとりで行っても絶対楽しいし、輪を広げればさらに楽しい。つまりこの連載は、同年輩のヲタはたくさんいるんだから、年をとって急にゴルフをはじめたり落語通になったり釣りにハマったり歌舞伎に通ったりするかわりに、あなたもひとつアイドルにハマってみるのはどうですか、という提案(および入門の手引き)なのである。

 アイドル論とかルポとか分析とか、アイドルに関する本はたくさん書かれているけれど、入門書的な性格の本はあんまり見かけない。わざわざ入門するような趣味じゃないと思われてるからでしょうが、歌舞伎やクラシック音楽やテニスに入門するように、アイドルに入門してもいいんじゃないか。まずは何から観ればいいのか。ライブのチケットはどこで買うのか。コンサートには何を持っていくべきか。会場で守るべき作法があるのか。......などなど、この連載では、中高年(30代~60代のおじさん、おばさん)がアイドルにハマり、アイドルの現場に足を踏み入れるためのごくごく初歩的かつ実用的なガイドともに、2015年のアイドル現場を日記風に紹介していく予定です。よろしくおつきあいのほどを。
 もちろん、わたしなんかよりはるかに長く、はるかに重いアイドル熱にかかっている中高年がたくさんいるはずですが、先輩諸氏におかれましては、新規が適当なこと書いてるなあ......と思いつつ、あたたかい目で見守っていただければと。